札幌高等裁判所 昭和53年(く)32号 決定 1978年12月15日
少年 N・Z(昭三四・一一・二五生)
主文
原決定を取消す。
本件を札幌家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告申立の趣意は、附添人弁護士○○○○○が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論にかんがみ、関係記録を調査すると、旭川地方検察庁検察官は、昭和五三年一一月一日、旭川家庭裁判所に、少年に対する覚せい剤取締法違反事件を送致し、同家庭裁判所はこれを即日受理し立件したのであるが、少年は、同月二日、弁護士○○○○○を附添人に選任する旨の、適式な附添人選任届を同家庭裁判所に提出したこと、同家庭裁判所は同月六日右事件を札幌家庭裁判所に移送する旨の決定をし、右附添人選任届書を含む関係記録一切が旭川家庭裁判所から札幌家庭裁判所に送付されたこと、札幌家庭裁判所においては、右事件を同月八日受理して立件し、同月一〇日、右事件について審判を開始する旨の決定をするとともに審判期日を同月二五日午前一一時と定め、同審判期日に、少年に対する同事件の審判を行ない、即日少年を中等少年院に送致する決定をしたこと、及び同審判期日に少年及び保護者である母M・Y子が出頭したが、右附添人は出頭していないことの各事実が認められ、しかも、右審判期日について同家庭裁判所が同附添人に対し少年審判規則二五条二項に定める呼び出しをした形跡がない。
ところで、少年保護事件における附添人は、少年に対する保護処分が適正に行なわれるための協力者ではあるが、他面少年の利益のために活動することが期待されているのであり、ことに弁護士の資格を有する附添人は、その選任について家庭裁判所の許可を必要としないとされ(少年法一〇条一項但書)、少年事件が少年法二〇条の規定によつて検察官に送致された場合は弁護人とみなされる(同法四五条六号)との法意に照らすと、少年法上、弁護士の資格を有する附添人に、少年の利益を擁護する職責ないしは立場が尊重されているといえるし、また弁護士の資格を有する附添人に対しては、その専門的知識を駆使することにより、非行事実の存否あるいは少年の責任の程度、要保護性の有無あるいは程度その他、少年保護事件についての決定の基礎となるべきことがらについて意見を述べ、資料を提供し、もつて少年に対する適正処分に導くことへの活動と協力が期待されているのであるから、かかる附添人が審判期日に出頭するかしないかは、保護処分の決定に重大な影響を及ぼすものといわなければならない。したがつて、原裁判所が附添人○○○○○を少年審判規則二五条二項の規定に違反して少年の前記審判期日に呼び出しをせず、その出頭がないまま審理して原決定を言い渡してしまつたことは、決定に影響を及ぼす法令違反があるといわざるをえない。論旨は理由がある。
よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取消し、本件を札幌家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山本卓 裁判官 藤原昇治 雛形要松)
〔参考〕 抗告申立書
申立の理由
一 抗告人は札幌家庭裁判所に係属する少年N・Zに対する覚せい剤取締法違反保護事件の附添人弁護士であるが、昭和五三年一一月二五日同裁判所で右少年の審判をするにあたり、同裁判所は抗告人に対し、審判期日の呼び出しをしないまま審判を行い、その結果少年を中等少年院に送致する旨の決定がなされた。
二 右の事実を抗告人が知つた経緯については、審判期日である一一月二五日(土)午後に至り少年の兄であるN・Tより
「本日弟N・Zの審判が札幌家庭裁判所にて行われ中等少年院に送致決定となつた」
旨を電話で知らされたが、抗告人は突然の知らせに驚き、裁判所に真疑の程を確認しようとしたが、当日は生憎土曜日であり、既に午後一時三〇分を経過していたため、翌々日の月曜日である一一月二七日に札幌家庭裁判所に電話を入れ、事の真相、及び附添人に対する期日通知をしたかどうか、文書発信簿に記入の有無並びに、電話聴取の有無について問い合わせたところ、担当書記官は一一月三〇日迄、出張不在であつたが、代りに○○○書記官が記録上種々調査したところ、附添人である抗告人に対し呼出しの手続きをしている形跡のない事の回答を得た。
三 少年審判規則第二五条二項によれば
審判期日には少年、保護者及び附添人を呼び出さなければならない
旨明記されているのにもかかわらず、附添人に対し何らの呼出しをしないで審判が行われた事は、本規則三〇条に規定する附添人の意見陳述権を不法に制限したものというべきであり、この不当なもとに行われた原決定も取消されるべきものと思料する。
よつて申立の趣旨記載の如き御決定を求めるため、本申立に及んだ次第である。